ツール制作の依頼、チャットだけで始めていませんか:フリーランス法で発注時に明示する8項目

フリーランス同士の小さな依頼でも、取引条件の明示はフリーランス法の義務です。公正取引委員会のパンフレットをもとに、ツールやWeb制作の発注メッセージに書いておく項目と、そのまま使える書き方を整理しました。
この記事が答える問い
業務の自動化ツールや小さなWebサイトの制作を、知り合いのフリーランスに頼む。逆に、自分がフリーランスとして依頼を受ける。こうした小さな仕事は、チャットで「これお願いできますか」「いいですよ」と始まることがよくあります。
2024年11月1日に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(以下、フリーランス法)では、フリーランスに業務を委託したときに、取引条件を明示することが義務になりました。この記事では、公正取引委員会のパンフレットをもとに、発注時に何を、どう伝えればよいかを整理します。
結論
- フリーランスに業務を委託したら、直ちに、取引条件を書面か電磁的方法(メール、SNSのメッセージ、チャットなど)で明示する。口頭だけでは認められない
- この義務は、発注する側がフリーランスでも課される。フリーランス同士の取引も対象
- 明示する項目は8つ。ツール制作では、特に「成果物の内容」「知的財産権の扱い」「支払期日」を具体的に書く
- 決められない項目があるときは、その理由と、いつ決めるかを先に伝える
誰が「フリーランス」で、誰に義務があるのか
この法律でいう「フリーランス」(特定受託事業者)は、業務委託を受ける事業者のうち、次のどちらかに当たるものです。
- 個人で、従業員を使用していない
- 法人で、代表者1人のほかに役員がおらず、従業員も使用していない
ここでいう「従業員を使用」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇うことです。同居の親族だけを使っている場合は当たりません。また、会社員が副業として事業者から業務を受けている場合も、その副業についてはフリーランスに当たります。
発注する側の義務は、相手の規模によって変わります。
| 発注する側 | 主な義務 |
|---|---|
| フリーランスを含む、すべての発注事業者 | 取引条件の明示 |
| 従業員を使用している発注事業者など | 上記に加えて、報酬の支払期日(受領から60日以内)の設定と支払、募集情報の的確な表示、ハラスメント対策の体制整備 など |
| 上記のうち、1か月以上の業務を委託する場合 | 上記に加えて、受領拒否・報酬の減額・買いたたきなどの禁止 |
つまり、従業員のいないフリーランス同士でも、取引条件の明示だけは必ず必要です。60日以内の支払などは、従業員を使用している発注事業者などに課される義務です。
明示する8つの項目
パンフレットでは、明示しなければならない事項として次のものが挙げられています。
- 発注する側と受ける側の名称(ビジネスネームでも、相手を識別できればよい)
- 業務委託をした日(業務委託をすることを合意した日)
- 給付の内容(何をお願いするのか)
- 給付を受け取る日、または作業をしてもらう日
- 給付を受け取る場所、または作業をしてもらう場所
- 検査をする場合は、検査を完了する日
- 報酬の額と支払期日
- 現金以外の方法で支払う場合は、その支払方法
6と8は、該当する取引の場合だけ必要です。
ツール制作で特に気をつけたい3項目
給付の内容:「いい感じに」では足りない
パンフレットでは、給付の内容として品目・数量・規格・仕様などを明確に書く必要があるとされています。ツール制作なら、次のような点を文章にしておくと、後から「頼んだものと違う」となりにくくなります。
- 何を作るのか(例:「受注CSVを読み込み、月別の集計表をExcelで出力するツール」)
- どこまでを含むのか(例:「使い方の説明資料は含む」「納品後の修正は○回まで」)
- 動かす環境(例:「Windows 11のExcelで動くこと」)
知的財産権:ソースコードの権利をどうするか
ツールやWebサイトの制作では、成果物に著作権などの知的財産権が発生します。パンフレットでは、業務委託の目的である使用の範囲を超えて知的財産権を譲渡・許諾させる場合は、その範囲を明確に記載する必要があり、その対価を報酬に加える必要があるとされています。
「納品したツールを社内で使う」のか、「ソースコードを自由に改変・再利用できるようにする」のかで、扱いは変わります。どちらにするかを、発注時に決めて書いておきます。
報酬と支払期日:「月末締め翌月払い」ではなく具体的な日を
報酬は、具体的な金額を書くのが難しい場合は算定方法でもよいとされていますが、支払期日は具体的な支払日を特定する必要があります。また、作業に必要な経費を発注する側が負担する場合は、経費を含めた総額が分かるように示す必要があります。
決められない項目があるとき
「要件を詰めてから金額を決めたい」というように、発注時点で決められないこともあります。パンフレットでは、内容が定められないことに正当な理由がある項目(未定事項)は、委託時に明示しなくてよいとされています。ただしその場合も、次の点を委託時に明示する必要があります。
- 未定事項以外の明示事項
- その内容が決められない理由
- 内容を決める予定の日
そして、内容が決まったら、直ちに追加で明示します。そのときは、最初の明示との関係が分かるようにしておきます。
そのまま使える発注メッセージの例
チャットやメールで送る場合の例です。項目の書き方は、取引の内容に合わせて変えてください。
【業務委託の内容】
- 発注者:○○(屋号)/受注者:△△ 様
- 委託日:2026年10月22日
- 業務内容:受注CSVを読み込み、月別の集計表をExcelで出力するツールの制作(使い方の説明資料を含む。納品後の修正は2回まで)
- 納品日:2026年11月10日/納品方法:メールでファイルを送付
- 検査完了日:2026年11月17日
- 報酬:○○円(税込、経費を含む)/支払期日:2026年11月30日
- 知的財産権:納品物は発注者の業務の範囲で利用・改変できるものとする
最後に「以上の内容で問題なければご返信ください」と添えておくと、お互いの認識がそろったことの記録にもなります。
困ったときの相談先
フリーランス側として、報酬の未払いなど取引上のトラブルに困ったときは、「フリーランス・トラブル110番」に相談できます。パンフレットでは、フリーランスが弁護士にワンストップで相談できる窓口として紹介されており、電話・メールでの相談のほか、和解あっせんも行っています。行政機関への申出をする場合も、申出書の書き方や論点の整理を支援してもらえます。
この記事は、公正取引委員会のパンフレットの内容を、ツール制作の発注に当てはめて整理したものです。自分の取引が法律の対象になるか、どの義務が課されるかといった個別の判断は、公正取引委員会の資料を確認するか、専門家に相談してください。
まとめ
フリーランス法の取引条件の明示は、大きな会社だけでなく、フリーランス同士の小さな依頼にも関わる義務です。といっても、特別な契約書が必要なわけではありません。チャットやメールで、8つの項目を文章にして送るだけで、義務を果たせるうえに、「言った・言わない」のトラブルも防げます。
次に依頼を出すとき、受けるときは、まず最初のメッセージに8つの項目がそろっているかを確認してみてください。
参考資料

Kwangmo Yang
Freelance Developer & Translator · Based in Osaka, Japan
大阪を拠点に、AI業務自動化、Web・ツール開発、日韓の言語サービスを手がけています。
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